大倉崇裕『福家警部補の挨拶』

本への愛を貫く私設図書館長、退職後大学講師に転じた科警研の名主任、長年のライバルを葬った女優、良い酒を造り続けるために水火を踏む酒造会社社長―冒頭で犯人側の視点から犯行の首尾を語り、その後捜査担当の福家警部補がいかにして事件の真相を手繰り寄…

バリントン・J・ベイリー『禅銃』

栄耀栄華を極めた銀河帝国は、純人間が激減、黄昏の時を迎えていた。さらに、エスコリア声域に恐るべき究極兵器が出現、帝国は危急存亡にあるとのがあった。事態を重く見たアーチャー提督は艦隊を率いて調査に赴くが、一行が発見したのは人猿混合のキメラが…

トム・ロブ・スミス『チャイルド44』

スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説…

矢崎存美『訪問者ぶたぶた』

ホストのコウは焦っていた。ナンバーワンは引き抜かれ、オーナーは病に倒れ…。そんなとき耳にした“伝説のホスト”の噂。不滅の売上記録を持つ謎の男とは?(「伝説のホスト」)。もう〆切に間に合わない―。アシスタントたちに逃げられ、独り泣く少女マンガ家の元…

三崎亜記『となり町戦争』

ある日、突然にとなり町との戦争がはじまった。だが、銃声も聞こえず、目に見える流血もなく、人々は平穏な日常を送っていた。それでも、町の広報紙に発表される戦死者数は静かに増え続ける。そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、町役場から一通の任…

ポール・オースター『最後の物たちの国で』

人々が住む場所を失い、食物を求めて街をさまよう国、盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなった国、死以外にそこから逃れるすべの無い国。アンナ・ブルームが行方不明になった兄を探して乗りこんだ国はそんな悪夢のような国であった… 主人公の女性が失踪した…

飯嶋和一『黄金旅風』

江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であ…

ジム・トンプスン『失われた男』

町の新聞社に勤めるブラウンは、頭も切れ、自信満々コラムを書きながら、詩作にいそしむ男。だが、なにやら秘密をかかえているらしい。そんな彼の日常を大きく変える女たちが登場する。出奔して娼婦となった妻、美しい未亡人、そして都会からの意外な訪問者―…

和田竜『忍びの国』

伊賀一の忍び、無門は西国からさらってきた侍大将の娘、お国の尻に敷かれ、忍び働きを怠けていた。主から示された百文の小銭欲しさに二年ぶりに敵の伊賀者を殺める。そこには「天正伊賀の乱」に導く謀略が張り巡らされていた。 『のぼうの城』の和田竜氏の第…

ニコルソン・ベイカー『中二階』

中二階のオフィスへエスカレーターで戻る途中のサラリーマンがめぐらす超ミクロ的考察。靴紐が左右同時期に切れるのはなぜか。牛乳の容器が瓶からカートンに変わったときの素敵な衝撃。ミシン目を発明した人間への熱狂的賛辞等々、これまで誰も書こうとしな…

恩田陸『不連続の世界』

『月の裏側』に登場した塚崎多聞を主人公にしたミステリー・ホラー短編集。『月の裏側』の内容を覚えていなくても、特に問題なく読むことができました。集中の「砂丘ピクニック」という短編には『中庭の出来事』に登場した楠巴も登場しています。恩田さんは…

米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』

あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っ…

恩田陸『中庭の出来事』

瀟洒なホテルの中庭。こぢんまりとしたパーティの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。周りにいたのは、次の芝居のヒロイン候補たち。自殺? それとも他殺? 芝居とミステリが融合した、謎が謎を呼ぶ物語のロンド。 先日読んだ『チョコレートコスモス』…

伊坂幸太郎『終末のフール』

あと3年で世界が終わるなら、何をしますか。2xxx年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて5年後。犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱の中、仙台市北部の団地に住む人々は、いかにそれぞれの人生を送るのか? 数年後の地球滅亡が分かり大…

貴志祐介『新世界より』

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。 いつわりの共同体が隠しているものとは――。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる! 「SFが読みたい!2009年版」第…

道尾秀介『片眼の猿』

俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。その秘密は追々分かってくるだろうが、「音」に関することだ、とだけ言っておこう。今はある産業スパイについての仕事をしている。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずが―。気付け…

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、…

山本弘『MM9』

地震、台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」が日夜を問わず日本の防衛に駆け回っていた。多種多様な怪獣たちの出現予測…

津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』

身長175センチ、22歳、処女。いや、「女の童貞」と呼んでほしい―就職が決まった大学四年生のだるい日常の底に潜む、うっすらとした、だが、すぐそこにある悪意。そしてかすかな希望…? ユーモラスな雰囲気をまとった文章から、序盤はやや軽い印象を受けたので…

三浦しをん『風が強く吹いている』

箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。…

2009年本屋大賞が決定

今年で第6回目を迎えた本屋大賞。今年の大賞は、湊かなえさんの『告白』に決定しました。2位は和田竜さんの『のぼうの城』で、1位、2位とも新人作家による作品という結果になりました。投票結果は次のとおりです。 1位:湊かなえ 『告白』 2位:和田竜 『の…

万城目学『鹿男あをによし』

神経衰弱と断じられ、大学の研究室を追われた28歳の「おれ」。失意の彼は、教授の勧めに従って2学期限定で奈良の女子高に赴任する。ほんの気休め、のはずだった。英気を養って研究室に戻る、はずだった。あいつが、渋みをきかせた中年男の声で話しかけてくる…

マイクル・コーニー『ハローサマー、グッドバイ』

夏休暇をすごすため、政府高官の息子ドローヴは港町パラークシを訪れ、宿屋の少女ブラウンアイズと念願の再会をはたす。粘流が到来し、戦争の影がしだいに町を覆いゆくなか、愛を深める少年と少女。だが壮大な機密計画がふたりを分かつ… 本の帯には「SF恋愛…

有栖川有栖『女王国の城』

舞台は、急成長の途上にある宗教団体“人類協会”の聖地、神倉。大学に顔を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿を訪れる。室内には神倉へ向かったと思しき痕跡。様子を見に行こうと考えたアリスにマリアが、そして就職活動中の…

川上弘美『神様』

川上弘美さんのデビュー作「神様」を含む9篇を収めた短編集。くまが隣人として普通に生活していたり、カッパに相談をもちかけられたり、ツボをこすると女の子が飛び出してきたりと、ストーリーの設定はおとぎ話かメルヘンかというところですが、そうした非現…

ボリス・ヴィアン『心臓抜き』

過去を持たず、空虚な存在として生まれた精神科医ジャックモール。その精神分析は、他者の欲望・願望を吸収して自己を満たすために施される… 自己という概念をなくした(?)精神科医のジャックモールが、ふとしたきっかけで出産を助けた女性の家にとどまり…

桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』

「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そ…

牧薩次『完全恋愛』

他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ。では、他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか? 昭和20年…アメリカ兵を刺し殺した凶器は忽然と消失した。昭和43年…ナイフは2300キロの時空を飛んで少女の胸を貫く。昭和62年…「彼」は同…

ロバート・チャールズ・ウィルスン『時間封鎖』

ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった…。周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼らは1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生…

三津田信三『凶鳥の如き忌むもの』

怪異譚を求め日本中をたずねる小説家・刀城言耶は瀬戸内にある鳥坏島の秘儀を取材しに行く。島の断崖絶壁の上に造られた拝殿で執り行われる“鳥人の儀”とは何か?儀礼中に消える巫女!大鳥様の奇跡か?はたまた鳥女と呼ばれる化け物の仕業なのか? 刀城言耶シリー…