ジム・トンプスン『失われた男』

町の新聞社に勤めるブラウンは、頭も切れ、自信満々コラムを書きながら、詩作にいそしむ男。だが、なにやら秘密をかかえているらしい。そんな彼の日常を大きく変える女たちが登場する。出奔して娼婦となった妻、美しい未亡人、そして都会からの意外な訪問者―突然暴力を爆発させ、非道な犯罪を重ねていくブラウン。しかし、世間を揺るがす巧緻な殺人劇は、予想もしない罠に飲みこまれていく…

自意識過剰で明らかに内面が壊れていると思しき主人公、理不尽に爆発する暴力はいつも通りのジム・トンプスン。そして結末に至ると、思いのほかしっかりとした本格ミステリーにもなっていて、これは予想していなかっただけにかなり驚いた。主人公の壊れっぷりがミステリーとしての仕掛けに結びついたなかなかの傑作でした。