ポール・オースター『最後の物たちの国で』

人々が住む場所を失い、食物を求めて街をさまよう国、盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなった国、死以外にそこから逃れるすべの無い国。アンナ・ブルームが行方不明になった兄を探して乗りこんだ国はそんな悪夢のような国であった…

主人公の女性が失踪した兄を探しに乗り込んだ国は、何もかもが失われつつある悪夢のような状況にあった。そんな中、彼女が次々に体験することになる極限的なできごとを綴った物語。全体に寓話的な雰囲気が漂っていますが、解説によるとここに描かれた状況の大半は世界のどこかで実際に起こっている現実を元にしているとのことです。
治安は最悪で明日生きていられるかどうかもわからない破滅へと向かう世界を舞台に、静かな悪夢のような展開が続くなんとも救いのない物語ではあるものの、むしろそれ故に、それでも人を助け愛することのできる人間の姿が際立ち、読後感は悪くなかったです。過去も未来もなくあるのは今の自分だけという状況を受け入れ、それでもしぶとく希望を持ち続ける人間の強さを感じさせてくれる小説でした。