川上弘美『夜の公園』

「申し分のない」夫と、三十五年ローンのマンションに暮らすリリ。このまま一生、こういうふうに過ぎてゆくのかもしれない…。そんなとき、リリは夜の公園で九歳年下の青年に出会う―。寄り添っているのに、届かないのはなぜ。たゆたいながら確かに変わりゆく…

ジャック・ヴァンス『ノパルガース』

まさかこんなことが!国防総省所属の科学者ポール・バークは愕然とした。謎の異星人に突然拉致され、焦土と化したその母星へと連行されたのだ。自らをトープチュと称する彼らは、通常は見ることも触ることもできない怖るべき寄生生命体ノパルを殱滅すべく戦っ…

ヘレン・マクロイ『幽霊の2/3』

出版社社長の邸宅で開かれたパーティーで、人気作家エイモス・コットルが、余興のゲーム“幽霊の2/3”の最中に毒物を飲んで絶命してしまう。招待客の一人、精神科医のベイジル・ウィリング博士が、関係者から事情を聞いてまわると、次々に意外な事実が明らかに…

東野圭吾『赤い指』

少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味…

恩田陸『木洩れ日に泳ぐ魚』

あの旅から、すべてが変わってしまった。一組の男女が迎えた最期の夜明らかにされなければならない、ある男の死の秘密。運命と記憶、愛と葛藤が絡みあう恩田陸の新たな世界。 一人の男の死をめぐって、一組の男女が繰り広げる心理戦。恩田さんのミステリーに…

梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』

時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり…それは、かけがえのない時間だった。だがある日、村田君に突然の帰還命令が。そして緊迫する政情と続いて…

柳広司『ジョーカーゲーム』

結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招…

桜庭一樹『少年になり、本を買うのだ』

桜庭一樹さんの読書エッセイ第一弾。この中で言及されているだけでもすごい読書量で、まさに呼吸をするように本を読んでいるという印象。執筆のスタイルもなかなか独特なようで、作家の生活の一端を垣間見ることができるのも楽しいです。また、本を読むとき…

ベルンハルト・シュリンク『朗読者』

15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。「なにか朗読してよ、坊や!」―ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは…

ロバート・A・ハインライン『夏への扉 新訳版』

ぼくが飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にたくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じているのだ。そしてこのぼくもまた、ピートと同じように“夏への扉”を探していた― 旧訳版を読んだのはかなり以前なので、再読…

恒川光太郎『秋の牢獄』

十一月七日、水曜日。女子大生の藍は、秋のその一日を何度も繰り返している。毎日同じ講義、毎日同じ会話をする友人。朝になればすべてがリセットされ、再び十一月七日が始まる。彼女は何のために十一月七日を繰り返しているのか。この繰り返しの日々に終わ…

岸本佐知子『気になる部分』

翻訳家・岸本佐知子さんのエッセイ集。少し前に読んだ「ねにもつタイプ」があまりにもツボだったので、急いでこちらも読んでみましたが、これまた当然のように大傑作でした。現実をあたかも虚構であるかのように思わせる、ある意味逆転の発想というか妄想が…

ジャック・カーリイ『毒蛇の園』

惨殺された女性記者。酒場で殺された医師。刑務所で毒殺された受刑者。刑事カーソンの前に積み重なる死―それらをつなぐ壮大・緻密な犯罪計画とは? カーソン・ライダーシリーズの第3作。「このミステリーがすごい!」においてそれぞれベスト10に入った前2作と…

梨木香歩『家守綺譚』

庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多…本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征…

ロバート・チャールズ・ウィルスン『無限記憶』

40億年におよぶ地球の時間封鎖を解くと同時に、謎の超越存在“仮定体”は巨大なアーチを出現させた。それをくぐった先は、未知の惑星“新世界”。人類がこの星と自在に行き来をはじめて30年が過ぎたある日、失踪した父親を追って一人の女性が“新世界”に降り立つ…

金井美恵子『軽いめまい』

郊外の住宅地にある築七年の中古マンションで、夏実は夫と小三と幼稚園児二人の息子と暮らしている。専業主婦の暮らしに何といって不満もなく、不自由があるわけでもない。けれど蛇口から流れる水を眺めているときなどに覚える、放心に似ためまい。 金井さん…

ジョージ・オーウェル『一九八四年』

“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、…

森博嗣『トーマの心臓』

ユーリに手紙を残して死んだトーマという美しい下級生。ユーリを慕っていたという彼は、なぜ死を選んだのか。良家の子息が通う、この学校の校長のもとに預けられたオスカーは、同室のユーリにずいぶんと助けられて学生生活を送ってきた。最近不安定なユーリ…

伊藤計劃『虐殺器官』

9・11以降、激化の一途をたどる“テロとの戦い”は、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した日を境に転機を迎えた。先進資本主義諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃するが、いっぽう後進諸国では内戦や民族虐殺が凄まじい勢い…

岸本佐知子(編・訳)『変愛小説集』

翻訳家の岸本佐知子さんが自らセレクションし翻訳した奇妙な恋愛小説集。木に恋をしたり、バービー人形を愛したりと設定がどれだけ変であっても、あるいはそれだからこそ、描かれている思いはこれ以上ないぐらいに純粋です。ここに収められているのはグロテ…

森博嗣『スカイ・クロラ』

僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供―戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。 森博嗣さ…

桜庭一樹『ファミリーポートレイト』

ママの名前は、マコ。マコの娘は、コマコ。うつくしく、若く、魂は七色に輝く、そしてどうしようもなく残酷、な母の“ちいさな神”として生まれた娘の5歳から34歳までを描く。 罪を犯した母親に連れられ、幼い頃から日本中を逃げ回るようにして暮らしてきたコ…

岸本佐知子『ねにもつタイプ』

翻訳家の岸本佐知子さんによるエッセイ集。ということになっている本書ですが、内容的にはただのエッセイではありません。日常のできごとを面白おかしく描いていたはずが、いつの間にやら思考があらぬ方向に脱線し妄想とも創作ともつかない独特の世界が展開…

直木賞、芥川賞が決定

第141回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考委員会が15日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は磯崎憲一郎氏(44)の「終の住処」(新潮6月号)、直木賞は北村薫氏(59)の「鷺と雪」(文芸春秋)に決まった。 http://sankei.jp.msn.com/c…

森見登美彦『きつねのはなし』

「知り合いから妙なケモノをもらってね」篭の中で何かが身じろぎする気配がした。古道具店の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。彼はそこで魔に魅入られたのか。 この「きつねのはなし」は4つの短編からなる連作短編集。奇譚集と銘うたれ…

ポール・オースター『幻影の書』

救いとなる幻影を求めて――人生の危機のただ中で、生きる気力を引き起こさせてくれたある映画。主人公は、その監督の消息を追う旅へ出る。失踪して死んだと思われていた彼の意外な生涯。オースターの魅力の全てが詰め込まれた長編。 主人公の文学者デイヴィッ…

有川浩『海の底』

4月。桜祭りで開放された米軍横須賀基地。停泊中の海上自衛隊潜水艦『きりしお』の隊員が見た時、喧噪は悲鳴に変わっていた。巨大な赤い甲殻類の大群が基地を闊歩し、次々に人を「食べている!」自衛官は救出した子供たちと潜水艦へ立てこもるが、彼らはなぜ…

堀江敏幸『雪沼とその周辺』

小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「ス…

三津田信三『首無の如き祟るもの』

奥多摩に代々続く秘守家の「婚舎の集い」。二十三歳になった当主の長男・長寿郎が、三人の花嫁候補のなかからひとりを選ぶ儀式である。その儀式の最中、候補のひとりが首無し死体で発見された。犯人は現場から消えた長寿郎なのか?しかし逃げた形跡はどこにも…

森見登美彦『恋文の技術』

京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生が一人。無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。手紙のうえで、友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ―。 全編書簡形式で書かれた小説。お互いの…