ニコルソン・ベイカー『中二階』

中二階のオフィスへエスカレーターで戻る途中のサラリーマンがめぐらす超ミクロ的考察。靴紐が左右同時期に切れるのはなぜか。牛乳の容器が瓶からカートンに変わったときの素敵な衝撃。ミシン目を発明した人間への熱狂的賛辞等々、これまで誰も書こうとしなかった愉快ですごーく細かい小説。

昼休み前に切れた靴ひもを買いに出かけて職場に戻った主人公が、中二階に向かうエスカレーターに足を踏み出したところから始まり、エスカレーターを降りるところで終わるこの作品は、帯に「極小文学」と書かれているように、主人公がふと目にしたものから展開する日常の些細な事柄に関する思考を微に入り細に入り描写した小説です。

そんなものが果たして面白いのか?という疑問を持ちながら読み始めたのですが、お笑い芸人のあるあるネタみたいな感じで「あーそんなことあるある!」と共感しながら大笑いできました。例えば、エスカレーターに乗ろうとして、上から降りてきたのが、仕事で少しだけ話をしたことがあってお互い顔見知りではあるけれど親しいというほどではない人だったときに、どんな顔をしてすれ違ったらいいのか困るので、忘れ物を取りに戻るふりでエスカレーターに乗るのをやめる、とか、熱風乾燥機よりペーパータオルの方がどう考えてもすばやく手を乾かせる、とか、こんな感じのことをあーでもないこーでもないと延々考え続けるだけなんだけど、ツボにはまればとにかく笑えます。

個人的には今年読んだ小説の中では、断然の最高傑作。この著者の小説はこれからどんどんチェックしていこうと思います。