トム・ロブ・スミス『チャイルド44』

スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた…。

2008年の「このミステリーがすごい!」海外編1位の作品。スターリン体制化のソ連で国家保安省に務める主人公が、国内の広い範囲で少年少女の大量連続殺人が起こっていることに気づき、自分や家族の身を危険にさらしながらも真犯人に迫る…というお話。

上巻ではなによりもまず国家ありきで、ほんのささいなきっかけで反逆罪に問われ人々がおびえながら暮らす、当時のソ連の圧倒的な閉塞感がこれでもかというぐらい描写されています。なので、なかなか読むのがしんどかったところはありました(ただ、文章自体は比較的読みやすかったと思います)。

そして主人公自身が田舎の警察官に降格され、本格的に捜査が開始される下巻。もちろん権力を失った主人公が簡単に捜査を進められるわけもなく、彼の行動が原因でさまざまな人々に迷惑をかけながらも、多くの人の協力を得て少しずつ犯人に迫っていく。このあたりはミステリーというよりも冒険小説のようで、誰かに裏切られるんじゃないかとハラハラしながら一気に読み進めることができました。

ラストに明らかになる犯人の正体は意外ではあるのですが、読者を驚かせることにはそれほど興味がないのか、ネタの割には淡々とした処理。このあたりは好みによるところが大きいと思いますが、個人的にはもう少しあっといわせることに重点をおいてもよかったのかな、と感じました。

総合的にはこのミス1位の看板はやはり伊達ではなく、とても著者が29歳のときのデビュー作とは思えない骨太の作品。一読の価値はあると思います。