牧薩次『完全恋愛』

他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ。では、他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?


昭和20年…アメリカ兵を刺し殺した凶器は忽然と消失した。昭和43年…ナイフは2300キロの時空を飛んで少女の胸を貫く。昭和62年…「彼」は同時に二ヶ所に出現した。平成19年…そして、最後に名探偵が登場する。

孤高の画家の人生を少年時代から晩年までの3つの章で描き、その各章で凶器の消失・密室殺人・アリバイ崩しといった不可能犯罪が起こる。そしてそれらの真相と共に、ラストで明らかになる「完全恋愛」の意味…。
正直に言うと、主人公の恋愛に関するオチは早い段階で想像したとおりだったのですが、恋愛とミステリーを緊密に融合させた構成は見事だし、戦後を代表する事件までもが謎解きの一要素となっていることには大いに驚き、そこまでやるかと大笑いさせていただきました。「このミス」で3位にランクインしたのも納得できる、大ベテランの実力が存分に発揮された傑作です。