三浦しをん『風が強く吹いている』

箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。

陸上競技を経験したことのない素人たちが、箱根駅伝をめざして走り続ける1年間を描いたストーリー。私は陸上に詳しいわけではありませんが、大学生の長距離ランナーにとって箱根駅伝は非常に華やかで大きな舞台であり、それだけに専門家の目から見ると設定に荒唐無稽な部分があるだろうということは容易に想像できます。ただ、素人が読む限りにおいては、陸上のトレーニングや駅伝のシーンの描写に大きな違和感はなかったし、ストーリーにグイグイのめり込んで読み進められたこともあって、読み終えたときには、夢のような話だけど全く有り得ないということもないのでは、と思うようになっていました。

はじめは渋々参加していたメンバーが、次第に走ることの魅力にとりつかれ、最後には全員が一丸となって目標に向かって突き進む。ベタといえばこれ以上ないぐらいにベタな展開ですが、その中に魅力的な登場人物とエピソードをちりばめ、「走る」という誰にでも理解しやすい題材をテーマに、生きることの意味をイキイキと描き出しています。キャラ設定やストーリー展開はある意味非常にオーソドックスで、読みながらビジュアルが想像しやすいマンガ的な小説だと感じたのですが、考えてみると少年マンガの三大要素とされる「友情」「努力」「勝利」を見事に兼ね備えていて、少年マンガの王道をそのまま小説化したような作品だといえそうです。リアリティにそれほど重きをおかずに読むことができたのは、このあたりの理由もあるかもしれません。

つっこみどころは数々あれど、そんなことは全く気にならないスピード感溢れる青春スポ根小説の大傑作!これは読むべし。