ロバート・チャールズ・ウィルスン『時間封鎖』

ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった…。周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼らは1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生の直後だった―地球の時間だけが1億分の1の速度になっていたのだ!

「SFが読みたい!2009年版」海外編第1位の作品。ある夜、突如空から星が消える。その原因は地球が正体不明の膜に覆われたためであり、調査の結果、地球上の時間の進み方だけが1億分の1の速度になっていることが判明する…、といういかにもSFといった導入からはじまるストーリー。

太陽の寿命は約50億年で、このままいくと今生きている人間が死を迎えるより早く地球は太陽に飲み込まれてしまう。そこで、科学者たちは地球と外部宇宙の時間差を利用して、火星に独自の生態系を築き、火星のテラフォーミング(地球化)を進めようとする…という具合に物語は展開していきます。

この設定だけをみると、ガチガチのハードSFのように思えますが、宇宙レベルでの壮大なストーリーが描かれる一方で、登場人物の造形や恋愛・友情・親子関係といったドラマもしっかり書き込まれていて、等身大の人間の物語としても非常に共感できる内容でした。もちろんSFとしても素晴らしく、ラストでの謎の解明と明らかにされる新たな世界像は鮮やかで、この小説が終わった後の世界の広がりを感じさせてくれる結末になっています。今年のランキング1位という看板に偽りなし、これは傑作です。