米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』

あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…

「小市民シリーズ」も3作目ということで、あらかじめわかっていることではあるのですが、主人公二人の性格が悪すぎて全く感情移入できないのが少々つらいところですね。ミステリーとしてはそれほどややこしい話ではなく、たぶんこいつだなと思った人物が予想通り犯人で、その意味でもちょっと拍子抜けしてしまいました。ただ、表面的に起こっている事件の犯人と新聞部員、そしてその背後で何やら暗躍している小山内さんと小鳩くんという二重の対決構造はなかなか巧みだし、意外な事実が明らかにされるラストの一撃もビシッと決まっていました。

表面的にはユーモラスで軽い意匠をまとっているものの、内容的にはなかなかダークな青春小説になっていて、脇役たちが主人公二人を際立たせるためのコマのように扱われるストーリーはあまり愉快なものではありませんが、事件を通して変化していく自意識過剰な高校生の成長(?)物語としては 、シリーズ最終巻となるであろう次作に向けて楽しみな展開ともいえます。

この作品単体で考えるとミステリーとしても青春小説としても少し物足りない部分はありますが、シリーズが完結した後に改めて読み直せば評価が大きく変わる可能性はありそうです。いずれにせよここまで読んだからには最後までつきあう覚悟はできているので、完結編を楽しみに待ちたいと思います。