桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。

この作品は、もともとはライトノベルレーベルの富士見ミステリー文庫から出ていた作品ですが、ミステリー的な要素はほとんどありません。

実弾を持ち得ない立場にありながら、世界から安心を与えらることのない二人の少女は、片や一刻も早く実弾を手に入れるため大人になることを欲し、もう一方は無力と知りつつ砂糖菓子の弾丸を打ち続けることで世界と戦おうとするのですが、冒頭ではあらかじめバッドエンドが宣告されています。この設定からしてどう考えても楽しい話にはなりようもないのですが、それに加えて序盤では普通に見えた登場人物たちが、ことごとくけっこうな歪みっぷりで、ますますこの作品を印象深いものにしています。

全体的にかなりコンパクトなつくりになっているので、多少語り足りない部分があるのでは、とかキャラ設定が少々雑だなと感じるところもあるのですが、余分な要素を極力排除して語りたいことのみを濃縮したということなんでしょう。桜庭一樹さんが放つ、ライトノベルという「砂糖菓子の弾丸」に見せかけた、まぎれもない実弾。あまりに救いのなさ過ぎる結末には、暗澹たる気分にさせられますが、この衝撃は一読の価値ありだと思います。