貴志祐介『新世界より』

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。
いつわりの共同体が隠しているものとは――。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる!

「SFが読みたい!2009年版」第1位、「このミステリーがすごい!2009年版」第5位、本屋大賞にもノミネートされるなど各種ランキングで高く評価されているこの作品。上下巻あわせて1000ページを超える大作ですが、非常に読みやすい上に終始緊張感が途切れることのないストーリー展開もあって、ページをめくる手が止まりませんでした。

現在と地続きではあるものの、科学文明は滅びその代わりに人類が呪力を手に入れている未来。バケネズミ・ミノシロモドキをはじめとした架空の生物や次第に明らかになる世界の姿は、これまで読んできたSFとは一味違った雰囲気で私は日本の神話的な世界をイメージしました。

ストーリーには序盤から不穏な気配が漂い、真実の断片が少しずつ提示されるとともに暗い雰囲気が増幅されていきます。そして人間の救いのない傲慢さ、恐ろしさを痛感させる衝撃的な真実が明らかにされ、悪鬼と呼ばれる化け物との最後の戦いが始まる…。という展開はある意味エンターテイメントの王道ではありますが、サスペンス・ホラー・SFのいずれとして読んでもハイレベルでさまざまな伏線を回収する手際もお見事。

そしてなんといってもこの小説の最も凄いところは、結末近くで感じさせるわずかばかりの爽快感を、最後の最後でさらに悲惨な形で吹っ飛ばすあまりに救いのないラスト。まともに受け止めるとかなり鬱な気分になること間違いなしで、私もかなりのダメージを受けました。

オリジナルなイメージを用いて厚みのある世界を構築し、長大なストーリーにはりめぐらされた伏線を目立った破綻なくまとめあげる力量は圧倒的。著者お得意のホラー風味も健在で、ランキング上位も納得の大傑作です。