恒川光太郎『秋の牢獄』

十一月七日、水曜日。女子大生の藍は、秋のその一日を何度も繰り返している。毎日同じ講義、毎日同じ会話をする友人。朝になればすべてがリセットされ、再び十一月七日が始まる。彼女は何のために十一月七日を繰り返しているのか。この繰り返しの日々に終わりは訪れるのだろうか―。

「閉じ込められること」がモチーフになった中編集。この著者の本を読むのは「夜市」に続いて2作目ですが、日常のすぐ隣にある異世界を、ノスタルジックかつ幻想的に描くという作風はやはり好み。シンプルで淡々とした文章も内容にピッタリあっていて非常に好ましい。物語にきっちりした決着をつけないことには賛否ありそうですが、個人的にはほどよい余韻につながっていてよかったと思います。収録されている3作中では「神家没落」が好みです。