岸本佐知子(編・訳)『変愛小説集』

翻訳家の岸本佐知子さんが自らセレクションし翻訳した奇妙な恋愛小説集。木に恋をしたり、バービー人形を愛したりと設定がどれだけ変であっても、あるいはそれだからこそ、描かれている思いはこれ以上ないぐらいに純粋です。ここに収められているのはグロテスクで一方的な恋愛の形がほとんどですが、一途にその思いを突き詰めていくと、どこまでが現実でどこまでが妄想なのか判然としなくなってくるという現象は、一般的な恋愛にあてはまることも多いのではないでしょうか。

岸本さんの好みもあるのか、全体的にSF風味の作品が多いように感じましたが、中でもレイ・ヴクサヴィッチ「僕らが天王星に着くころ」はほぼSFといってもいい内容で個人的には一番好みでした。それ以外ではA・M・ホームズ「リアル・ドール」、ジュディ・バドニッツ「母たちの島」あたりがお気に入りです。