皆川博子『倒立する塔の殺人』

戦時中のミッションスクール。図書館の本の中にまぎれて、ひっそり置かれた美しいノート。蔓薔薇模様の囲みの中には、タイトルだけが記されている。『倒立する塔の殺人』。少女たちの間では、小説の回し書きが流行していた。ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。手から手へと、物語はめぐり、想いもめぐる。やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、物語は驚くべき結末を迎える…。

美しい装丁からも想像されるように、いかにも皆川さんらしい退廃的な雰囲気と幻想的な文章で綴られる、印象深いミステリーでした。「倒立する塔の殺人」と題されたノートに、さまざまな人物が小説を書き継いでいくという、メタにメタを重ねる構成は、正直あまり読みやすいとはいえませんが、それでも不思議な読み心地のまま世界観に引き込まれて読み進んでいくと、ラストでは思わずうならされることに。

戦時中が舞台ということで死の影が色濃くつきまとう中、それでも少女たちの世界は独自のルールで動いているかのごとく描かれていて、このあたりは少女マンガ風の学園ものとしても読めるし、作品全体としての雰囲気は幻想小説風ではありますが、ミステリーとしての完成度は非常に高いので、ミステリーファンなら安心して読める小説だと思います。