三津田信三『厭魅の如き憑くもの』

憑き物筋の「黒の家」と「白の家」の対立、「神隠しに遭った」ように消える子供たち、生霊を見て憑かれたと病む少女、厭魅が出たと噂する村人たち、死んだ姉が還って来たと怯える妹、忌み山を侵し恐怖の体験をした少年、得体の知れぬ何かに尾けられる巫女―。そして「僕」が遭遇した、恐るべき怪死を遂げてゆく人々と謎の数々…。

ここ数年のミステリーランキングをにぎわせている、三津田信三さんの「刀城言耶シリーズ」。せっかく読むんだったら第1作目からと思い、遅ればせながらこの作品を読んでみました。

同じ名前の女性が多数登場したり、背景説明やらウンチクやらが多かったりで、序盤はちょっと読み進むのに時間がかかりました。個人的には民俗学的なネタは嫌いじゃないので、読むのが苦になるというほどではなかったです。なんでこんな構成なのかな、すこしリズムが悪いかな、と思いながら読んでいくと、ラストでその違和感がしっかりネタに結び付いて、読み返してみると細部まで非常によく練られた作品だということがわかります。

私はミステリーを読むときに、途中でネタがわかってしまうとつまらないので、極力何も考えずに読むようにしているため、この作品についても最後に思い切り驚くことができました。ただ、読み返してチェックしてみると、注意深く読む方なら途中で作者のたくらみに気づくかもしれないな、と思うぐらい、仕掛けたネタに対してフェアに描写がなされています。

また、この作品は紛うことなき本格ミステリーですが、ホラーとしても秀逸。少し入り込むのに時間がかかった分、雰囲気に慣れてしまうと逆にどっぷりと世界に浸ることができて、恐怖感も存分に味わうことができました。とりあえず1冊読んでみて、このシリーズの評価が高いのも納得。シリーズの他の作品も、期待できそうです。