ジェフリー・ディーヴァー『魔術師』

ニューヨークの名門音楽学校で殺人事件が発生。犯人は人質を取ってリサイタルホールに立てこもる。駆けつけた警官隊が包囲し出入り口を封鎖するなか、ホー ルの中から銃声が聞こえてきた。ドアを破って踏み込む警官隊。だが、犯人の姿はない。人質もいない。ホールは空っぽだった…。衆人環視のなかで犯人が消えるという怪事件の発生に、科学捜査専門家リンカーン・ライムと鑑識課警官のアメリア・サックスは、犯人はマジックの修業経験があることを察知して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を要請する。奇術のタネを見破れば次の殺人を阻止できる。しかし、超一流イリュージョニストの“魔術師”は、早変わり、脱出劇などの手法を駆使して次々と恐ろしい殺人を重ねていく―。

リンカーン・ライムシリーズの第5作。今回の犯人は、さまざまなイリュージョンの技術を用いて犯行を重ねる“魔術師”ということで、なんといっても読みどころは“誤導”を幾重にも張り巡らせ裏をかくことにより、真の目的から目をそらせようとする犯人と、それに先回りして真相にたどりつこうとするライムをはじめとする捜査陣の知恵比べです。スピーディな展開に加えて、これでもかというぐらいにどんでん返しを繰り返す構成は、サービス満点で大満足。こうしたシリーズ物は第1作が一番充実していて、その後は下降線をたどることも多いですが、この作品は第1作の「ボーン・コレクター」を超えた素晴らしい傑作になっているのではないでしょうか。