スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』

20世紀初頭のニューヨーク。想像力を武器に成功の階段を昇る若者の究極の夢は、それ自体がひとつの街であるような大規模ホテルの建設だった。

『アウグスト・エッシェンブルク』のからくり人形や、『J・フランクリン・ペインの小さな王国』のアニメーションなど、何かに取り憑かれた人間の生きる世界を執拗かつ繊細に描いてきた著者が、この長篇で描いたのは一つの世界ともいえる建造物を夢見て、壮大なホテルを建設していく青年の物語でした。
これまで読んだ中短編では、どちらかというとストーリーとしての物語よりも、細部にわたる世界の描写が中心になっていましたが、長篇になったことで物語と細部の描写の両方がバランスよく組み立てられていて、非常に堪能できました。そしてマーティンの夢が建造物の形になって実現する最終章「グランド・コズモ」では、いつもの短編のような細密描写が炸裂。最後の最後まで密度は薄まることなく、濃密なままマーティン・ドレスラーの夢は終わりを迎えます。
この小説を読んでいる間は、延々と別世界に浸ることのできるまさしく夢のような傑作。これはすごいです。