カート・ヴォネガット・ジュニア『猫のゆりかご』

わたしはジョーナ。『世界が終末をむかえた日』の執筆準備にとりかかったのは、キリスト教徒だったころのこと。いま、わたしはプエルト・リコ沖のサン・ロレンゾ島にいて、禁断のボコノン教を奉じている。ボコノン教に入信したきっかけこそは、ほかならぬ未完の大作『世界が終末をむかえた日』なのだった…。

凄いところはいろいろありますが、なんといってもまずはボコノン教。教主自らがニセ宗教であることを認めており、人々の目を現実からそらすためだけにつくられた宗教であるにもかかわらず、島民全員が惹きつけられているという描写は、宗教に対する強烈な皮肉であり、人間にとって宗教とはなんなのかということを考えさせられます。

そしてSF作品としても、アイス・ナインをはじめとする魅力的な道具立てと、あっさり人類が滅亡してしまうヘンテコなストーリーは破壊力抜群。原爆の産みの親が、人類を滅亡させるきっかけを作ってしまうという設定にも深いテーマが読み取れそうですが、それは置くとしても(置いちゃだめなんでしょうけどね)一級品のストーリー展開には大満足。

全体的に筆致が軽いためエンターテイメント作品として読み流してしまいそうですが、人間と宗教や科学との関係という重いテーマが提示されている社会派小説でもあります。あっさり読んでしまうにはもったいなさすぎる作品、またいつか今度はもっと考えながら再読してみたいですね。