スタニスワフ・レム『エデン』

惑星エデンに到着した宇宙船は、計算ミスからほぼ墜落に近い状態で不時着してしまう。墜落の衝撃で宇宙船は大きなダメージを受け、乗組員は再び飛び立てるようになるまで、知的生命体の発見を期待して惑星を探査する。そこでさまざまな理解不能の出来事に遭遇し、やがて接触してきたこの星の住民によって状況の一端が少しずつ明らかにされる…。

スタニスワフ・レムの『エデン』は、『ソラリス』『砂漠の惑星』とともに3部作を構成し、いずれも人類とは全く生命形態や思考の異なる異星人と、コミュニケーションを図ろうとする人間たちの姿が描かれています。

惑星への不時着から始まって、惑星探査の中で出会うさまざまな事件。あるときはエデン人の大量の死体を発見し、あるときは何かから逃げ惑うエデン人の群れに遭遇する。これに対して6人の乗組員は、それぞれが独自の意見をもって議論は紛糾します。同じ思考の前提を持つ地球人同士でも意見は対立し、完全に分かり合えることはないわけで、ここにも異星人とコミュニケーションをとることの困難さが表されているようです。
レムの作品では異性人とのコンタクト失敗が描かれることが多いのですが、この作品では一応ある程度の意思疎通が行われます。その結果乗組員の目には、この星の住民がかつて地球人がたどった歴史の中にいるように感じられ、彼らはこの問題に介入すべきか悩むことになります。結局自分たちの解釈は、あくまでも地球人による一つの判断にすぎないと判断した彼らはそのままエデンを去ることを選択します。このあたりのストーリー展開に、人間という存在のあらかじめ定められた限界に対するレムの考え方が反映されているように感じました。

物語の筋立てとしては単純なものなのですが、最後までカタルシスは全くありません。なので、波乱万丈のストーリーを期待して本を読む方にはおすすめしにくいですが、例えば『ソラリス』を読んで、レムの他の作品も読んでみたいと思った方には是非おすすめしたい作品です。