恩田陸『木洩れ日に泳ぐ魚』

あの旅から、すべてが変わってしまった。一組の男女が迎えた最期の夜明らかにされなければならない、ある男の死の秘密。運命と記憶、愛と葛藤が絡みあう恩田陸の新たな世界。

一人の男の死をめぐって、一組の男女が繰り広げる心理戦。恩田さんのミステリーにはよくあるシーンですが、ふとしたきっかけから事件の様相がガラリと入れ替わる展開があいかわらずうまいですね。恩田作品の登場人物が何かに気づくときの感じは、女性はこういうところを見て男性の浮気に気づく、みたいなのにちょっと似ていてぞわぞわするところはあるのですが…。ジャンル的にはいわゆる「安楽椅子探偵」もので、推理は想像と仮定に基づいていてミステリーとしての厳密性には欠けるのですが、テンポも良くすっきりまとまった舞台劇のような佳作です。