梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』

時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり…それは、かけがえのない時間だった。だがある日、村田君に突然の帰還命令が。そして緊迫する政情と続いて起きた第一次世界大戦に友たちの運命は引き裂かれてゆく…

『家守綺譚』に名前のみ登場していた、村田青年のトルコ留学記。混沌とした時代を背景に、淡々とした随筆風の文章で時にニヤリとさせる描写を交えながら記される日々の生活がなんともいい雰囲気。中盤以降、物語はしだいにシリアスな様相を呈し、切ない展開の最終章を経ることで、それまでのすべてのエピソードがますます愛おしくなる。これは傑作です!