桜庭一樹『ファミリーポートレイト』

ママの名前は、マコ。マコの娘は、コマコ。うつくしく、若く、魂は七色に輝く、そしてどうしようもなく残酷、な母の“ちいさな神”として生まれた娘の5歳から34歳までを描く。

罪を犯した母親に連れられ、幼い頃から日本中を逃げ回るようにして暮らしてきたコマコ。母親に虐待されながらも、コマコにとっては母親が世界のすべてであり、それゆえ疑いを抱くことなく彼女を愛し続ける。

コマコの感情描写は息苦しいほど濃密でリアルに感じられるのに、それをとりまく世界はあからさまに虚構の気配を隠しておらず、あえてリアリティを排除して非現実的。特に前半は明らかに自覚的にそうされていて、コマコと母親であるマコの関係のみに焦点を絞って描かれているため、その密度たるや読んでいて苦しくなるほど圧倒的です。後半はコマコがかっこよすぎる感もあるのと、またその方向にいっちゃうのかという既視感があって個人的には少し評価が下がりましたが、それでも読み終えたときの満足感はかなりのものがありました。

読むのはしんどいし、けっこう評価が別れる小説のような気がするけど、こういうの嫌いじゃないです。「赤朽葉家の伝説」「私の男」と3部作をなす作品というのを後で知ったのですが、この順番に読んだ方がよかったかなというのが若干心残りです。まあ、おそらくそれほど大きな問題ではないと思うのですが。