『蛇イチゴ』

2003年 日本(108分)
監督:西川美和
出演:宮迫博之つみきみほ平泉成大谷直子


明智家の娘・倫子は、幼い頃から真面目で優秀。現在は小学校で教師をしており、同僚で恋人の鎌田との結婚を控えている。そんな彼女は働き者の父、優しい母、ボケてはいるが明るい祖父に囲まれ、平穏な毎日を過ごしていた。だがある日、痴呆の進んだ祖父が亡くなり、その葬式に10年間も行方知れずだった長男・周治が姿を現わしたのをきっかけに、一家の和やかな雰囲気が一変する。やがて、世渡り上手の周治は、家族に内緒で多額の借金をしていた父の窮地を救い、家に迎えられるのだが、倫子だけはお調子者の兄をどうしても受け入れることができずにいた…。

西川美和監督のデビュー作。ボケ老人の介護という問題はあるものの一見平穏に見える家庭。そんな中でまじめに正しく生きてきたちょっと堅物の長女。祖父の死をきっかけに、隠されていたさまざまな秘密が明らかになり家族は崩壊寸前になるが…というお話。

西川監督の「ゆれる」「ディア・ドクター」においては人間の曖昧さが重要なテーマになっていましたが、それはこのデビュー作でも同様でした。プライドだけは人一倍でリストラされたことを言えなかった父親、平気で人を騙すデキの悪い兄と比べると、家族の中でただ一人真っ当な存在であるように見える主人公。まじめに正しく生きてきたはずなのになぜか家族はデタラメばかりでバラバラになり、その象徴ともいえるうさんくさい兄をどうしても信用できない。そんな彼女がラストシーンで見たものは…。

正しいように見えることにも間違いはあるし、デタラメにしか思えないことの中にも真実は潜んでいる。そしてそんな真実に出会うことこそ人生の醍醐味、というのがこの映画のいわんとするところだと思います。ちなみに、ラストにつながる重要な伏線になっているのが、少年が掃除をさぼったことを糾弾される教室のシーン。状況証拠が積み重なると一つの方向に誘導されやすい人間の心理と、一見正しいように思われることが必ずしも真実ではないというこの映画のメインテーマが凝縮されています。