『まぼろし』

2001年 フランス(95分)
監督:フランソワ・オゾン
出演:シャーロット・ランプリングブリュノ・クレメール、ジャック・ノロ


マリー(シャーロット・ランプリング)とジャン(ブリュノ・クレメール)は結婚して25年になる50代の夫婦。子どもはいないが幸せな生活を送っている。毎年夏になると、フランス南西部・ランド地方の別荘で過ごしていた。今年も同じようにバカンスを楽しみに来た。昼間、マリーが浜辺でうたた寝をしている間、ジャンは海に泳ぎに行く。目を覚ましたマリーは、ジャンがまだ海から戻っていないことに気づく。気を揉みながらも平静を装うマリー。しかし、不安は現実のものとなってしまう。ヘリコプターまで出動した大がかりな捜索にもかかわらずジャンの行方は不明のまま。数日後、マリーはひとりパリへと戻るのだったが…。

長年連れ添った夫がバカンスに訪れた海で消息不明になり、悲しみにくれながら日々を過ごす妻のその後を描いたお話。かろうじて正気を保ち日常生活を送るものの、次第に幻覚を見るようになる彼女。そして互いに満足し何不自由ない生活だったはずが、少しずつ明らかになっていく自分の知らない夫の姿。

まぼろし」というタイトルには、幻のように消えてしまった夫、妻の見る幻覚、そして彼女が信じていた「互いに愛し合っていた」という思いなどのさまざまな意味が込められていてなかなか深いです。表面的には幸福だったはずの夫婦生活が実はそうではなかったという事実、それを乗り越えることができず現実と幻を混同したまま生きて行く彼女の姿は非常に痛々しい。そしてラストシーンで描かれる行動によって、はたして彼女は救われたのか。シンプルなストーリーですが、死とむきあう人間の姿をじっくりと描いたなかなかの良作だと思います。

「8人の女たち」や「スイミングプール」といった作品でも感じたのですが、フランソワ・オゾン監督は男性であるにもかかわらず、非常に女性心理を描くのがうまいですね。この監督が男性だと知ったときにはかなり驚いたのを覚えています。