森見登美彦『新釈・走れメロス 他四篇』

古典的な名作を、独特の古風な文体を用いて新しく解釈しなおした短編集。収められているのは「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」の5編。

一番バカっぽくて、断然面白かったのが、表題作の「走れメロス」。多少ネタばれになっていまいますが、「友情を証明するために約束を守るようなつまらない男ではないこと」を証明するために、約束を守らせようとする追っ手から、京都の町を縦横無尽に逃げまわるというお話。本家「走れメロス」とは真逆の歪んだ友情を描きながらも、友情の素晴らしさはきっちり伝わってくるところがよかったです。

桜の森の満開の下」のラストの余韻は非常に味わい深かったし、「藪の中」はもとの作品のテーマからして面白くならないわけがないですね。古典的な文学作品を解釈して、自分の色を出しながら再構築していくという難しい作業が要求されたと思いますが、どの作品もなかなか完成度が高くて、非常に楽しめる作品集でした。