井上夢人『あわせ鏡に飛び込んで』

お久しぶりの井上夢人氏の新刊。巻末の大沢在昌氏との対談によると、2006年1月の『THE TEAM』以来とのことです。文庫オリジナルの短編集ですが、新作ではなくてこれまでの単行本未収録作品を中心に構成されています。

収録されている短編は、すべて1990年代の作品で、最も古いものでは1990年に書かれたものも含まれています。そのため、一部の作品では道具立てがちょっと古くなってしまっていますが、にも関わらずミステリーとしての骨格がしっかりしているため、その切れ味はまったく衰えていません。いわゆる“奇妙な味”の短編を中心に集められていて、日本の異色作家短編全集があったら、その中の1巻として含まれていてもおかしくないような作品集だと思います。

個人的なお気に入りは「あなたをはなさない」「私は死なない」、そして標題作の「あわせ鏡に飛び込んで」あたりでしょうか。特に「あなたをはなさない」はシンプルながら、結末のその後を想像すると、おお怖…。

さて、この本で短編は十分に堪能させていただいたので、次は新しい長編を、そして「99人の最終電車」のDVD版をよろしくお願いします。