池上永一『テンペスト』

末期琉球王朝珊瑚礁に囲まれた五百年王国の美少女・真鶴は、国を救うため性を偽り宦官になった。王府入りした真鶴はフル回転で活躍するが、待っていたのは流刑で…。

多少クセがあってとっつきにくい部分もあるけれど、波乱万丈のストーリーを勢いにまかせて描ききるのが池上永一氏の特徴。ハードカバー上下巻、800ページを越えるこの作品でも、最初から最後まで飛ばしてます!月刊誌に連載されていたということもあって、全編クライマックスといってもいいほどの山場の連続に、読み始めるとなかなかその手が止まりませんでした。
相変わらず荒唐無稽な場面も多く、寧音の男装だけでもそうとう無茶してるのに、真鶴と寧音の入れ替わりはさすがにばれるでしょ!とか冷静に考えると、たしかにつっこみどころ満載。ただ映像が目に浮かぶような描写のおかげで、まるで伝統芸能の舞台を見ているような気分になったためか、読んでいる間はそれほど違和感は感じませんでした。
内容をひとことで言い表すのは難しいですが、琉球の文化・信仰を背景に、大国に挟まれた小国の官僚の苦悩、王宮内での権力闘争、後宮における争い、迫る列強の影、そしてさまざまな出来事を通じて絡まりあう人間関係から密かに生まれてくる恋心などなど、歴史小説に求められる思いつく限りの要素を詰め込んだんじゃないかというほどの大盤振る舞いに、読み終わったときには心地よい疲労と充実感でもう大満足。
ある意味これまでの池上永一そのままといってもいい作品ですので、過去の作品を読んで苦手だと感じた方がこれを読んで楽しめるかというと、ちょっと微妙かもしれません。逆に池上作品のファンならまず間違いなし、必読の大傑作、だと思います。