ポール・アルテ『七番目の仮説』

ペストだ! その一言に、下宿屋の老夫婦は戦慄した。病に苦しむ下宿人の青年を囲んでいるのは、中世風の異様な衣裳に身を包んだ三人の医師。担架で患者を搬出すべく一行が狭い廊下に入ったとたん、肝心の患者が煙のように担架の上から消え失せた! 数刻後、巡回中の巡査が、またしても異様な姿の人物に遭遇する。言われるままに、路地に置かれたゴミ缶の蓋を取ると、そこにはなんと……だが奇怪きわまる一夜の事件も、実はさらなる怪事件の序章に過ぎなかったのだ。それはさすがのツイスト博士も苦汁を舐めさせられる難事件中の難事件だった。

毎年夏の風物詩、ポール・アルテの新刊が今年も登場しました。
冒頭の怪奇趣味を前面に押し出した不可能状況からグイグイ引き込まれて、あっという間に一気読み。最後まで読んでから改めて考えると、冒頭のシーンはそこまでやる必要があったのかなと思わなくもないですが、バリバリの本格ミステリなんだから、やりすぎるぐらいのサービス精神があってしかるべしとむしろ評価したいところ。
相変わらず本格ミステリであることのみに専念している姿勢は心強い限り。解説によるとすでに30冊以上著作があるようだし、年に1冊といわずもっと翻訳してくれてもいいんですけどねえ。