スティーヴン・ミルハウザー『バーナム博物館』

先日日本でも公開された、映画『幻影師アイゼンハイム』の原作をはじめとする10編が収録された短編集。想像力を刺激する濃密な描写が素晴らしい傑作揃いですが、中でもお気に入りは表題作「バーナム博物館」、「探偵ゲーム」、そして「幻影師アイゼンハイム」あたり。


「バーナム博物館」はいかにもミルハウザーらしい作品。非常に複雑なつくりのバーナム博物館は、常に増改築を繰り返し、どれほど見て歩いても見終わることがないように思われる…。お得意の幻想的でありながら、実在感あふれる精密な描写がすごいです。ちなみに解説によると、バーナムとは19世紀のアメリカの興行師で、うさん臭い新奇な見世物で評判をよんだ人物だそうです。

「探偵ゲーム」は実在のクルーというゲームを題材にした作品。ゲームをプレイする4人の心理描写と、ゲームの解説、そしてゲーム内のできごとが順番に描かれていますが、現実とゲーム内での二重のさぐりあいが楽しいです。このゲームをプレイしたことがないのが残念。

「幻影師アイゼンハイム」は、映画とは全然違う作品。映画は映画でおもしろかったのですが、ミルハウザーの作品にしてはやたらと起承転結がはっきりしていて、わかりやすいように感じていました。ところが原作であるこの小説は、映画からストーリー部分をそぎ落として(というか映画の方が、余分な登場人物やストーリをつけ加えているのですが)、アイゼンハイムの奇術と奇術そのもののような彼の人生だけに焦点を絞って、淡々としかし濃密に描写されています。起伏のあるストーリ仕立てでなくても、ここまで楽しませてくれるのはさすがです。