藤岡真『ギブソン』

果たして彼が向かったのは右の道か、左の道か、それとも正面の道か?――8月2日午前6時、待ち合わせの場所に高城秀政は現れず、そのまま失踪してしまった。敬愛する上司の行方を追う日下部の前に次々現れる、奇矯な人びとと不可思議な事実。町内に出没する謎の消防車、血痕を残して消えた老人、生き別れの娘、正体不明の脅迫者。それぞれがパズルのピースのように結びつき始めても、杳として知れない高城の行方。大量のレッド・ヘリングに翻弄されながら、遂に日下部が直面した驚愕の真実とは?

事件を追う主人公日下部の前に、次から次へと山のように出てくる手がかりや怪しい人々、そして謎がまた謎を呼びさらに情報は錯綜する一方なのに、事件の全貌はなかなか見えてこない…という構成で、いってみれば贅肉だらけの小説なんですが、いろいろと過剰な部分がむしろいい感じに仕上がってます。

手がかりのほとんどが、上司の失踪事件には直接関係がないと判明していくところが一番大笑いできるポイントなんですけど、そういった余計な部分を取り除いて最終的に明らかにされる真相は、なかなかよくできているところも評価したいですね。そしてタイトルに込められた意味が明らかにされるラストもお見事。

登場人物たちのキャラがいまひとつ安定しない感じがあって、読後感としては、やっぱり奇妙な話だなあと思うのですが、そのあたりも含めてかなりの異色作。ちょっと変わったミステリーをお探しの方には、おすすめできるんじゃないでしょうか。