スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』

第1部が中篇『アウグスト・エッシェンブルク』、第2部が主人公の女性の日常的な危機の瞬間を描いた3つの短編、第3部が幻想的で緻密な3つの短編からなる、スティーヴン・ミルハウザーの初期作品集です。

なんといっても冒頭の、『アウグスト・エッシェンブルク』が素晴らしいです。ただ芸術としてからくり人形をつくり続けるアウグストと、彼のつくった人形を金儲けに利用しようとする人々。芸術と世俗の対比といってしまうとありがちなお話のように思えてしまいますが、初期作品とはいえ、細部をすみずみまで精密に描写するような独特の文章は、すでに高いレベルで完成されています。見事なからくり人形の動きが美しい言葉で描かれ、それぞれの場面が自分の目で見ているかのように、イキイキと感じられます。繊細な工芸品のような、というたとえがピッタリの作品ですね。

第2部はこの著者の作品としては珍しく、日常の一シーンを描いた短編になっていますが、ここでは微妙な女性心理の描き方が非常に的確だと感じました。第3部では『東方の国』が、いかにもミルハウザーらしい作品でよかったです。細かい章に分けて「不眠症の廊下」「瞼絵」など東方の国の不思議を描いているのですが、幻想的な描写に想像力が喚起される博物誌として楽しめました。

個人的には2冊目のミルハウザーですが、やっぱり凄い作家です。今度は、映画化された『幻影師アイゼンハイム』の原作所収の『バーナム博物館』(タイトルからしてすごく面白そう)あたりを読んでみたいと思っています。