スタニスワフ・レム『宇宙創世記ロボットの旅』

<無窮全能資格>優等免状をもつ宙道士トルルとクラパウチュスの二人が、さまざまな種族たちに助言や援助を与えるために広い宇宙を旅する物語。内容はSFの意匠をまとったおとぎ話という感じですが、訳者の方が非常に苦労したのではないかと思われるいろいろな用語などの雰囲気もとても楽しい作品です。


9編からなる短編集ですが、個人的に特に面白かったのは「竜の存在確率論」「盗賊『馬面』氏の高望み」「トルルの完全犯罪」あたりです。全部で200ページちょっとの短い作品集ですが、それぞれの作品に詰め込まれたアイデアはとても濃密で、難解な用語を用いながらもなんとなくうさんくさくて笑える科学的論理を楽しむのはもちろん、文明社会への皮肉という視点で読むもよし、あまりに人間っぽい機械たちに笑うもよし、いろいろな読み方ができそうです。


スタニスワフ・レムといえば『ソラリス』などのシリアスなSFで有名ですが、実はこの作品のようなバカSFこそが真骨頂ではないかと思えてしまうほどよくできたお話です。幸いなことに紀伊國屋書店文庫復刊フェアで復刊されていました。この機会に是非一度読んでみてほしいです。