森博嗣『トーマの心臓』

ユーリに手紙を残して死んだトーマという美しい下級生。ユーリを慕っていたという彼は、なぜ死を選んだのか。良家の子息が通う、この学校の校長のもとに預けられたオスカーは、同室のユーリにずいぶんと助けられて学生生活を送ってきた。最近不安定なユーリの心に、トーマの死がまた暗い影を落とすのではないか。そんな憂慮をするオスカーの前に現われた転校生エーリク。驚くことに彼はトーマそっくりだったのだ―。

萩尾望都さんの傑作マンガを、萩尾さんの大ファンでもある森博嗣さんが小説化した作品。全体的に少しあっさりているかなという印象はあるものの、原作の雰囲気を残しながら説明的になりすぎず、森作品のテイストもしっかり盛り込んで、この手の小説の中ではかなりよくできているのではないでしょうか。

原作を知らない人が読んでも充分楽しめると思いますが、本筋とは大きな関係のないところで、原作からの驚くような設定変更があってニヤニヤさせられたり、原作ファンならより一層満足できる内容になっていると思います。