『ウォッチメン』

2009年 アメリカ(163分)
監督:ザック・スナイダー
出演:マリン・アッカーマンビリー・クラダップマシュー・グード


ジョン・F・ケネディ暗殺事件、ベトナム戦争キューバ危機など、世界で起きた数々の事件を見守ってきたヒーローたち“ウォッチメン”。しかし、かつてウォッチメンだった男の一人が暗殺される事態が発生。殺害現場には、血のついたスマイル・バッジが残されていた。しかも、ウォッチメンたちの殺害はその後も続き……。

スパイダーマン』シリーズや『ダークナイト』などアメコミの映画化においては、単純な勧善懲悪といった枠には収まらない、善と悪との間でのゆらぎ・せめぎあいといった描写が魅力的な作品が多いですが、この『ウォッチメン』を観るとそれらの作品ですら大衆受け・メジャー志向を意識して製作されていたということが強く感じられます。

ウォッチメン』では、さまざまな要素を盛り込み濃厚な世界を細部まで丁寧に描写しているため、ストーリーのテンポは必ずしもよくありません。また、登場するヒーロー一人ひとりが過去に苦悩し、現在におびえて生活しているため、正義の力強さを感じさせてくれるような存在ではなくなっており、それでいながら闘いの場面では不必要とも思える残虐な描写がたびたび登場します。

これらを単純にとらえれば不愉快あるいは退屈に感じられる原因となり、つまらない・意味が分からないといった評価につながることが想像されますが、個人的にはこうした過剰な描写や哲学的とも思われるキャラクター設定こそが、後半の怒涛のような展開を導くキモであり、この映画のもっとも魅力的な部分だと感じました。

そしてこの映画のもつ過剰さが最終的に行き着く先には、エンターテイメントの常識から考えればありえないような強烈なラストが待ち受けています。前半の執拗な描写の数々は、こうした展開が起こりえるような世界であることを観る側に納得させるために存在していたと考えれば、ある程度その意味が理解できるのではないでしょうか。

強い衝撃とメッセージ性をもつラストシーンをどのようにとらえるかは人それぞれだと思いますが、いずれにしても勧善懲悪といった単純な世界観からは程遠いところにある、映画の持つ奥深さを存分に感じさせてくれる稀有な作品。これは一見の価値ありです!