金城一紀『映画篇』

初めて読んだ金城さんの小説『GO』の中でも、映画に関するエピソードがいくつか出てきて、この方はかなりの映画ファンなんだなと思っていましたが、この『映画篇』はそのものズバリ、数々の傑作映画を通じて登場人物たちが心を通わせるストーリーを描いた連作短編集になっています。

収められている5編のうち最初の4編までは、何らかの困難な状況にある登場人物が、映画を観ることを通じてつながりあい、心の強さを取り戻していくというストーリー。そして最後を締めくくる「愛の泉」だけは、最初から最後までひとかけらの悪意も存在しない、笑って泣いて感動できるぶっちぎりのハッピーエンディングになっていて、読み終わって「ああ、いい話だった!」と心の底から思わせてくれます。

すべての作品を読み終えて振り返ると、最初の短編「太陽がいっぱい」で、友人を救おうとする主人公が心の中でつぶやくセリフ「クソみたいな現実が押しつける結末を、物語の力でいともたやすく変えてやるのだ」というのが、金城さんがこの小説を書くにあたっての決意表明だったんだなと感じました。映画を愛し、小説を愛するすべての人に読んでほしい素晴らしい傑作です!!

小説の中に出てきた映画で観てみたいなと思った作品をメモしておくと、「恋のためらい フランキーとジョニー」「ローリングサンダー」「フライングハイ」そして最終話のタイトルにもなっている「愛の泉」あたり。読み返したら、ほかにも観たい映画が出てくるかもしれません。