カート・ヴォネガット・ジュニア『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』
隣人を愛することに取り憑かれ、恵まれない人々に愛とお金を分け与えようとする大富豪エリオット・ローズウォーター。この行為によって彼は父親の信頼を失い、妻はノイローゼになり、さらに彼の財産を狙う若手弁護士が現れる。それでも彼に頼りきりの恵まれない人々に助けを与え続けるエリオットが最後に下した決断は…。
単に頭のおかしい人間ともとられかねないエリオットの生き方ですが、ヴォネガットの筆にかかると彼が現代の聖人であるかのように感じられてきます。彼が愛と理解と金を与えるのは「たいていの人間の基準からすると死んだほうがましに思える人たち」で、しかも彼の行為によってこれらの人々が生き方をあらため立派な人間になるわけですらありません。それでもエリオットがなによりも大事だと考えるのは「人に親切にすること」だけです。彼が最後に下す決断は、一般的に考えて正気の沙汰ではありませんが、彼の考え方の中ではこれしかないというものだったと思います。ある意味皮肉な結末ともいえますが、なぜかほっとさせられました。
物語の中にちりばめられた名言の数々も素晴らしく、これまでなぜこの作家の本を読んでいなかったのかと不思議に思えてきます。まだまだ有名作品はたくさんあるので、これからヴォネガット作品をどんどん読んでいく予定です。