イアン・マキューアン『アムステルダム』

1998年のブッカー賞受賞作品。社交界の花形であったモリーが若年性痴呆症でなくなり、その葬儀にはかつての愛人たちが参列する。親友でありながらともにモリーの愛人であった作曲家のクライヴ、新聞の編集長ヴァーノンの姿もその中にあったが、2人はモリーの死にショックを受け、互いに自分の意思で動けなくなったら安楽死をさせるという約束を交わす。そして、モリーの遺品から見つかったスキャンダラスな写真をきっかけに、2人の運命の歯車は狂い始める。


互いを信頼し、いざというときには安楽死をさせる約束をするほどの親友であった2人が、スキャンダル写真をめぐって対立しながら、それぞれ坂道を転がり落ちていき、最後にはなんとも皮肉な結末にいたります。娯楽作品的な視点で見れば、うまく落ちをつけたブラックな笑い話ともいえますが、登場人物の暗い部分を笑いながらも自らを省みて笑いきれなくなってしまうような物語です。